つまさき


つまさきだけで立ってみる。
少し背が高くなって、あなたの肩が丁度見えた。
「何してんの?」
眼鏡の奥、笑って細くなった目が素敵。
「もうちょっとで届きそう」
そう言ったわたしの隣、あなたもつまさきで立った。
あなたの肩は、見上げなければ見ることができない。
「まだまだ」
追いつきそうで、追いつけない。
わたしが進むのと同じ分だけ、あなただって進んでる。
だから追いつくことができないの。
「そんなに悔しかった?」
わたしの顔を見てそう言った。
「ううん」
わたしの手の甲にあなたの指先があたって、自然に手を繋いだ。
つまさきだけでどうにかできるようなものじゃなくて、
どんなことをしても埋められない何かがあって。
でもそんな悩みも問題も、どんなことだって、
あなたの一言で吹き飛んでしまうんだよ。
繋いだ手に力を込める、想いを込める。
その一言が何より嬉しい。
ほら、言ってくれた。
「好きだよ」