海のおわり、空のはじまり


ちりん、ちりん。
ベルが鳴って、横を通り過ぎていく。
風を吸い込んでふくらんだ白いシャツが眩しかった。
「リョージ!」
大声で名前呼んだら、自転車が止まって、リョウジが振り向いた。
「何?」
「乗せて!」
何で俺が、っていう顔したけど、気にしないで後に飛び乗った。
「どこまで?」
ため息を吐きながらリョウジが訊いてくる。
「どこまでも」
「は?」
またわけのわからんことを、そう呟くのがきこえたけど、
そういうのにはもう慣れていて、全然気になんなくて、だから笑って言う。
「リョウジが行くところ連れてって」
「家に帰るけど」
「じゃあ、それで」
「いやだよ」
「じゃあどっか行こうよ」
リョウジはまたため息を吐いて、嫌そうな顔をしたけど、自転車をこぎ始めた。
勢いよく坂を下る。
ブレーキと風の音がうるさい。
「どこいくのー?」
「え、きこえない!」
「どこいくのーっ!」
さっきよりもずっとおっきい声で言った。
「海が終わって、空が始まるとこ!」
「どこー!」
「考えろ!」
坂を下り終わって、平らな道を進んでいく。
もうふつうの声でもちゃんと聞こえる。
「天国?」
「俺等は死ぬのか?」
「だってわかんないよー」
「そこの坂下ったら見えてくる」
今度はさっきの坂よりも急な坂だった。
だからさっきよりもっとブレーキと風の音がうるさい。
風で前髪が上がって、髪も乱れる。
まともに喋れないけど、海が終わって空が始まるところがわかったときは、
思わずおっきすぎるくらいの声で叫んでしまった。
「あーっ、わかったーっ!」
「おせーよ!」
海が終わって、空が始まる、ふたつの青の境界線。
あそこまでいけるかな、ってリョウジに言ったら、行ってみろって笑われた。