さよならの唄


誰もいない教室。
黒板には「卒業おめでとう」の文字。
おめでたくなんかなくて、わたしはひとりで泣いていた。
机に突っ伏して、ひくひく言って、泣きじゃくってた。
どうしようもないんだ、泣く以外にできることは何もない。
でも、ずっとこうしてるわけにもいかない。
そろそろ先生が見回りに来るだろうし。
ポケットからティッシュを取り出そうとしたとき、ガラガラッと扉の開く音がして、驚いた。
でもしゃっくりは止まらなくて、涙も止まらなかった。
「何泣いてんだよ」
無責任なことば。
男のくせに妙に高い声。
顔を上げて扉の方を見ると、そこにいたのはやっぱり隼人だった。
わたしはティッシュで涙を拭いて、鼻をかんだ。
「隼人のせいだよ」
しゃっくりだけが止まらない。
なんだか間抜けだと自分で思った。
「卒業のせいじゃなくて?」
「それもあるけど」
隼人がわたしの頭を軽く叩いた。
そのせいでまた涙が溢れてきた。
「その気になれば会いに行ける距離だよ」
「でも寂しいよ」
「それはしかたないだろ?」
「わかってるよ、そんなの。しかたないのはわかってるよ」
涙で濡れたわたしの手を隼人はぎゅっと握りしめた。
そして突然、唄い出した。
隼人の好きな唄、だからわたしも好きな唄。
いい唄なのに、隼人の声で唄うと間抜けだった。
わたしは思わず笑って、気付いたら涙もしゃっくりも止まってた。
「さよならの唄じゃないよ、また会おうの唄」
「へんな唄だね」
わたしが笑うと、隼人は立って、わたしを立ち上がらせた。
「さ、帰るか」
隼人の声は相変わらず高くて、
差し出された隼人の手は相変わらず大きかった。