らくがき


少し癖のある髪と野性的な眼。
笑ったときのくしゃっとなった可愛い顔。
優しさと強さ、そのかっこよさが大好きです。
細長い指。
きれいな手でペンを持って、わたしのノートにラクガキ中。
「ねぇ、勉強しないの?」
「なんでするの?」
「だってテストじゃん、明後日」
「明日やるからいーの」
こんなくだらないやりとりが、恋人のように見えていたら幸せ。
友達だけど、一緒にいる時間は短くて、ほとんど話さない。
だからいっぱい話したくて、思い切って、誘ってみた。
放課後、一緒に勉強しようよ。
教室には勉強してる人が何人かいる。
その中、教室の真ん中に、わたしと小川くん。
プリントとかワークとかやってみるけど、どうしても気になってしまう。
それで、声をかけてしまう。
自然にしていたいのに、そうはできない。
「ねぇ、卒業したらどうするの?」
「高校いって、大学いって、働く、かな」
「ふぅん」
「岡崎は?」
「わたしも高校、大学、は行こうと思ってる」
「そ。なぁ、もう帰んない?」
「あ、うん」
周りにはもう誰もいなくなっていた。
いつの間にかみんな帰ってしまっていたらしい。
「おれ、ちょっと職員室。ここで待ってて、一緒帰ろ」
「うん」
帰り支度をする前に、小川くんのラクガキを見る。
わたしのノート、1ページ全部を使って書いてる。
変な絵とか技の名前とかをいろんな色を使って書いていた。
こんなこと書くんだなーて思って。
その中に、目立つ黒い文字。
「岡崎へ」
わたしに?
何が書いてあるんだろうとか思って、見るのが少しこわかった。
ゆっくり眼を下ろしていく。
「好きだから付き合って 小川より」
信じられなくて、夢じゃないかと思って、頭の中が混乱してる。
嘘だ、冗談だよ。
きっと隠れて笑ってるんだ。
深く深呼吸をして。
教室の扉が開く音。
「岡崎ぃー」
そう言った小川くんの頬が微かに赤い。
わたしの表情を見て、わかったみたいだった。
「あ、見た?」
「…うん」
「いい?」
「うん」
ほら、そうやって、くしゃっとさせて可愛く笑う。
嘘じゃなかった、ほんとだった。
じゃあ、小川くんの恋人?
「帰ろう、やよいちゃん」
「うん、まさひろくん?」
小川くんはまた可愛く笑って、変な感じ、と言った。
わたしのほうが変な感じ。
まだ夢の中にいるみたい。
だって、今まで思い続けてきた人の手がわたしの手を握ってる。
これを超える幸せはとうぶん来そうにもないよ。