ピンクのマニキュア


タバコの煙とコーヒーが混ざったにおい。
この部屋はいつもそのにおいがする。
わたしはその大人のにおいが好き。
わたしがここに来ると、彼はいつもコーヒーをいれてくれる。
ほんとは砂糖を入れたいし、
できれば飲みたくないけど、
いつも苦いのを我慢して飲む。
5さい年下のわたしを子供のように見て欲しくないから。
だから大好きなパフェは食べないし、
フリルの付いたスカートもはかない。
できるだけ精一杯の背伸びをして、彼の隣に立ってたい。
でも、わたしの誕生日に彼がくれたプレゼントは、
かわいいピンクのマニキュアだった。
子供っぽいから我慢してたもののひとつ。
「子供っぽくない?」
「全然。かわいいから似合うよ」
わたしが我慢してたこと、
それから、我慢してたもの、
彼は全部知ってたみたいで、
あとからわたしにこんなことを言った。
「コーヒーには何杯砂糖入れたっていいし、
 パフェだって思う存分気の済むまで食べていい。
 マニキュアもスカートも我慢することないんだよ」