パレット


水色の空、薄い白の雲。
きれいな空が君のスケッチブックに広がっている。
「絵描くの好きだね」
「うん」
空が広がる窓の外には背を向けて、カーテンまで閉めてる。
そうやって描いて、よくそんなにきれいな絵が描けるなぁって、いつも思う。
「よく見ないで描けるよね」
「見ないから描けるんだよ」
「絵描く人って、みんなそうなの?」
「さあ、どうだろうね。僕がそうってだけかもしれない」
「ふぅん」
君は絵を描くのをやめて、筆とスケッチブックを机に置いた。
「だってさ、ホントの空は汚いんだよ」
「そう?」
「うん、だから僕は描くんだ。
 きれいな空を描いて、ホントの空なんて忘れたいからね」
わたしは椅子から立ち上がって、窓に向かって歩く。
「ちゃんと見たことないでしょ?」
カーテンを開けたら、一気に光が差し込んできた。
もしかしたら、君の絵よりもきれいかもしれないよ?
広い広い青の空。
ぽっかり浮かんだふわふわの雲。
誰かがとばした赤い風船が飛んでいった。
「もっとちゃんと見て」
君はゆっくり振り向いて、窓の外、広がる空を見た。
「風船」
「うん」
「きれいだ」
君はパレットに赤い絵の具をいれる。
スケッチブックに赤い風船を描く。
前より、ずっとずっときれいで、優しい絵だった。