神様に願うこと


背が高くて、目つきが悪くて、気が強い。
それだけで女の子らしくないだって。
もし神様がいるんなら、あたしは女の子らしくなりたい。


技術の課題が終わってなくて、放課後やらなきゃいけなかった。
こんな暑い日に、エアコンも扇風機も団扇すら置いてない技術室でひとり。
技術準備室に作りかけの棚を取りに行く。
ほんとにひどい。
釘は板から飛び出してるし、板は合ってるとこなんてひとつもない。
なんでこんなに下手なんだろう。
棚を持って、技術室に戻る。
すると、そこには知らない男。
制服を見れば、きっとこの学校の生徒。
「ひどい棚だね」
にやりと笑う、その顔に腹が立つ。
「アンタには関係ない」
棚を大きなテーブルの上に置く。
板を一枚はめ込むだけだからそんなに時間はかからない。
男が話しかけてくるけど、それを無視して作業を進めた。
自分で思ってたより、ずっと早く終わって、準備室に棚を戻す。
「もう終わり? はやいねー」
「だから何? その前にアンタ誰?」
「僕は三年四組大山孝道です」
「まだここにいるの?」
「うん」
「じゃあカギ返しといて」
そう言って、あたしは大山にカギを放り投げた。
大山は慌ててキャッチする。
「誰に?」
「真田」
「おっけい」
大山はにやりと笑って、カギを揺らした。
あたしはそんな大山をちらりと見て、技術室を出た。


次の日。
校舎に寄りかかって座り、フェンスの向こうのサッカー部を眺めてた。
木陰になっていて気持ちいい。
涼しい風まで吹いてきて、最高の場所だった。
「あっれぇ?」
上から声がして、見上げると大山がいた。
「アンタか」
大山はあたしの横に座る。
「きのうさぁ、僕のこと睨んだでしょ」
「睨んでないから」
「睨んだって」
「睨んでない」
「あれは睨んでた。ぞくっとした」
「うっさいなぁ、睨んでない。こういう目なの、仕方ないの」
あたしは立ち上がって、大山を睨んで、家へと帰った。


次の日、昼休みが終わっても屋上にいた。
フェンスに寄りかかって座り、学校に繋がるドアを眺めてた。
そんな感じはしてたけど、大山がそのドアから出て来た。
あたしの前に立って、睨んでくる。
「邪魔」
「アンタこそ邪魔」
あたしがそう言うと、大山はあたしの横に座る。
「うそー。きみのまね」
「あっそ」
「・・・あのー、きのうはごめんなさい」
「いいよ、別に」
「気にしてるとは思ってなくて、だって、きれいな目だと思ったんだ」
「そんなこと言わなくていい。別に気にしてるわけじゃないから」
「お世辞とかじゃないぜっ」
「あっそ」
「僕、もう戻るかなぁ。センセーこわいんだよね」
「じゃあ、あたしも戻るかな。先生はこわくないけど」
大山があたしの手を握って、言った。
「途中まで一緒に行こーっか」


神様。
今まであなたを信じたことはなかったけど、
こんな時だけ信じるなんてずるいけど、
あなたを信じていいでしょうか。
願ってもいいでしょうか。
望んでもいいでしょうか。
どうかあたしに勇気を下さい、ほんの少しのかわいさと。


何日か後の放課後。
大山も技術の課題が終わってないらしく、手伝うことになった。
「僕もけっこうひどいんだよねー」
「いっしょにしないでよ」
大山の棚はもう棚とは呼べないくらいにひどかった。
「すぐ終わるから」
「あたし手伝うこと無いよね?」
「そうなっちゃうねー」
ただ黙って、大山が棚をつくるのを眺めてた。
でも、どんどん棚とは呼べないものになっていった。
この何日間かで、大山とは親しくなった。
廊下ですれ違うと、大山は笑いかけてくるし、
昼休みは屋上で一緒に過ごすことが何回かあった。
いつのまにか、大山がいることが当たり前になっていた。
「はいっおわりー。どうよ?」
大山はできあがった棚をあたしに見せつけた。
「それ、もう棚じゃないよね」
「それは言わないでおいて」
大山は棚を準備室に戻しに行く。
頭で考えた訳じゃない、いつのまにか体が勝手に動いていた。
大山の右手首をあたしはしっかりとつかんでいた。
顔が熱くなって、とっさに手を離した。
「あっ、ごめん」
「どしたの?」
「棚、戻してきて。それから話すから」
「わかった」
大山は準備室に棚を置くと、すぐに戻ってきた。
「いや、あの、あのさぁ、自分でも信じられないけど、そういうことになっちゃって。
 冗談じゃないから、ちゃんと聞いてよ」
「うん。ちゃんと聞く」
大山の目は言葉通り、真剣だった。
「もうそうなっちゃったからどうにもできなくて、でも、ほんとだから。
 おかしかったら笑っていいから。
 その、つまり、大山のこと好きなんだよね。
 女の子らしくもないし、きれいでもないけどさぁ、付き合ってほしいわけだよ」
あたしが右手に持っていたカギを大山はするりと抜き取った。
もう顔が熱くて、どうなってるのかもわからなかったけど、
大山があたしに見えるように、カギを揺らしていたのはわかった。
ちゃらちゃらという音が聞こえる。
その中に、大山の声。
「おっけい」