白夜の花嫁


夜の公園。
静かな公園には、僕ら二人の音しか聞こえない。
紺碧の空。
いくつもの星が瞬いて、とてもきれいだ。
僕の隣で彼女は笑っている。
花壇の縁を歩くから、僕よりすこし背が高い。
落ちるから、と言って、彼女は僕の右手を支えにした。
触れる手は冷たくて、それなのにあたたかい。
街灯が立っているところで花壇は終わり。
「おわりだ」
すこし寂しそうな彼女の声。
合わせていた手を握った。
「あのさ、言おうと思ってたことがあるんだ」
「うん、何?」
僕は彼女と向き合うように立って、あいていた左手で彼女の右手も握った。
「大学行こうと思ってるんだ」
「うん」
「それで、卒業したら働く」
「うん」
「いっぱい稼いで、それで、ちゃんと生活できるようになったら」
恥ずかしくなってきて、顔が熱い。
「結婚しよう」
自分の言葉に恥ずかしくなって、俯いてみたら、
そこから、彼女の顔をちゃんと見ることができない。
「幸せにしてね」
前髪の間から見た彼女は、にっこり笑っていた。
「幸せにする、約束するよ」
僕がそう言うと、彼女はまた笑って、うん、と言った。
彼女は僕の手をはなすと、花壇から飛び降りた。
「指切りしよう」
そう言って差し出された小指に僕は小指をからめる。
「嘘ついたらどうする?」
「つかないで」
小指をはなして、また手を繋いだ。
「帰る?」
僕が訊ねると、彼女は笑顔で答える。
「ゆっくりね」