ぼくのすきなもの
うるさいくらいの蝉の鳴き声が好きだ。
舌を出して、こっちを見て、しっぽを振る犬。
君は犬に手を振って、
「かわいいね」
と言った。
踏みならす、砂利道の音が好きだ。
右手に持ったラムネを空にかざす。
空気の泡がついたビー玉がきれいで、君にそれを教えると、君は真似した。
「取り出したいけど、このままにしておきたいね」
君はそう言って、ラムネを少しだけ飲んだ。
空を見渡せる、つばのある帽子が好きだ。
サンダルを脱いで、投げ飛ばす。
「投げるなんて」
そう言って君は非難したけど、やっぱり君は真似した。
裸足になった君は気持ちよさそうに笑って、脚をバタバタさせた。
やさしく吹く、涼しい風が好きだ。
立ち上がって、裸足のまま走り出すと、君も真似した。
脚が速い君は、すぐにぼくに追いついた。
そのうち僕を抜かして、振り返って、僕を呼ぶんだろう。
ふざけて馬鹿にして、また笑うんだろう。
僕を呼ぶ、君の声が好きだ。
歯を見せて笑う、君の笑い方が好きだ。
ふざけて、さわいで、はしって、わらって。
君と過ごすこの時間が好きだ。