足跡


まだ信じられなかった。
きのう、君がここにいたことが。
もう、君がここにいないことが。
何の物音もしない、静かな部屋でひとり。
椅子の上で膝を抱えて座ってた。
涙なんて流れてこない。
だって、まだ信じられないんだよ。
きのうまで幸せだって言って笑ってたのに。
君は急いでなんかいなかったのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。
君と一緒にやりたいことがまだまだいっぱいあったんだよ。
こんなことになるんなら、もっと大切に過ごせばよかったね。
ただ過ごしてきた日々がどうしてこんなに愛しいのかな。
君の手を握りたい。
笑い声が聴きたい。
ばかな話をしたい。
どんなに強く想っても、もう戻ってこないのに。
どんなに強く願っても、もう君には会えないのに。
静かな部屋に小さな音が聞こえる。
止まってしまった君の時間。
置き忘れていった腕時計だけが、静かに時を刻んでいた。